ドイツ学術情報(過去の分)

2016年

ドイツ研究振興協会(DFG)に新理事2人が就任(6月30日)

ドイツ研究振興協会(DFG)は、2人の新たな理事を迎えた。7月6日にマインツ大学で開催されたDFG年次総会において、ミュンヘンで活躍する化学者であるフィッシャー教授(Roland A. Fischer)とフランクフルトで活躍する文学者であるグリーム教授(Julika Griem)を理事として選出した。フィッシャー教授はボンの生化学者ファムロク教授、グリーム教授はミュンスターの古代史学者フンケ教授の後任として就任する。実験物理学者のエアトマー教授は他の2人の新たなメンバーとともに4年の任期で再任された。

フィッシャー教授は2016年1月から、ミュンヘン工科大学の無機・有機金属化学分野(Inorganic and Organometallic Chemistry)の長を務めている。それ以前は、1997年から2015年まで、ルール大学ボーフム(RUB)で無機化学の教授を務めていた。彼は1961年生まれで、ミュンヘン工科大学で博士号を取得し、カリフォルニア大学でのポスドク経験後、大学教授資格(ハビリタチオン)を同じくミュンヘン工科大学で取得している。その後ムンバイと京都で客員教授を務めた。フィッシャー教授はRUBに設置された研究所である“ Alfried Krupp School Laboratory”の創設者でありまた研究所長として、またドイツ学術財団連盟のプロジェクトにおいても、自然科学と人文社会学の融合に尽力してきた。この学際的方針は、あらゆる科学分野を融合させた大学院である。ルール大学研究院における議長としての彼の役割にも反映された。Fischer教授はDFGの重点プログラムのコーディネーターでもある。2012年から、彼は共同研究センターにおける共同研究センターでの上院委員会のメンバーとして、学術の自己統制に尽力している。彼は2002年から2012年までRUBの教育学部の副学部長として、この課題について貢献してきた。

グリーム氏は1963年生まれで、フランクフルト大学の英文学の教授である。グリーム氏はフライブルクとマサチューセッツにあるアマーストの大学で英文学とドイツ文学の研究をしてきた。フライブルク大学で博士号を取得した後、シュトゥットガルト大学において、 “Monkey Business. Apes as Figures of Anthropological and Aesthetic Reflection 1800–2000”という課題名で大学教授資格(ハビリタチオン)取得した。2005年から2012年まで、ダルムシュタット工科大学にて、英文学の教授を務めていた。グリーム氏は、2012年からDFGのハインツマイヤー・ライプニッツ賞の選考委員会の委員、2015年からはDFGの文学研究分野の審査委員を務めている。また、2014年からは共同学術会議(GWK)の戦略委員会とDFGのエクセレント・イニシアチブ助成委員会の選考委員も務めている。

彼女は、2016年3月からフォルクスワーゲン財団が助成している大学院研究グループである “Schreibszene Frankfurt”の長も務めている。2006年から2012年まで、彼女はダルムシュタット工科大学の“Topologies of Technology”と題したDFGのリサーチトレーニンググループのメンバーでもあった。

エアトマー氏は1949年生まれで、1994年からハノーファー大学にて実験物理の教授を務めている。以前は彼自身の出身大学であり博士号及び大学教授資格(ハビリタチオン)を取得したボン大学に在籍していた。エアトマー教授の専門研究分野は、原子物理学、量子光学、そしてレーザー冷却である。また、彼の研究の功績が認められて1997年にはDFGのゴットフリート ヴィルヘルム ライプニッツ賞を受賞している。エアトマー氏はDFGの戦略計画の上院委員会のメンバーでもある。2013年に副会長となって以来、彼はDFGの資金調達プログラムの実施と発展において重要な役割を担ってきた。更に、国際共同研究に特にヨーロッパとヨーロッパサイエンスにおけるDFGの代表者として非常に貢献してきた。

DFGの理事長であるシュトローシュナイダー教授と理事であるフィッシャー教授(新任), グリーム教授 (新任)とエアトマー教授 (再任2期目)に加えて、その他の理事会の理事として、工学系のアルゲヴァー教授、分子生物学者であるベッカー教授、医学者であるブルックナー・ツダーマン教授、数学者であるホッホブロック教授と法学者であるシェーン教授が名を連ねる。ドイツ学術財団連盟の会長であるバーナー教授は理事会の顧問として席を残している。また、DFGの事務局長としてズウォネク氏がアドバイザーの立場から理事会に参加する。会長と共に、理事会は今後、戦略的かつ概念的な方向でDFGを発展させていく。

DFG: http://www.dfg.de/en/service/press/press_releases/2016/press_release_no_30/index.html
 

連邦教育研究省(BMBF)が排気ガス再利用研究プロジェクトに対し6,000万ユーロ以上を助成(6月27日)

連邦教育研究省(BMBF)は、排気ガスの動力燃料やプラスチック、肥料への再利用を目指す研究プロジェクト"Carbon2Chem"に対して6,000万ユーロ以上を助成するとしている。当該プロジェクトには、参加機関・企業が2025年までに1億ユーロ以上の投資を計画しており、商業的な実用化へは10億ユーロ以上を予定している。

"Carbon2Chem"プロジェクトは、産学連携により基礎研究と市場との橋渡しをするものである。たとえばドイツの鉄鋼業から排出されるCO2のうち年間2,000万トンを将来的に産業に利用できるようにするとしており、これは、ドイツの工業プロセスや加工業からのCO2年間排出量の10%に相当する。当該プロジェクトの恩恵を受けるのは鉄鋼産業に限らず、"Carbon2Chem"は今後10年にわたって様々な分野を互いに結びつける持続的な付加価値の連鎖を開発し、業界の枠を越えたイノベーションを促進する。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/mit-abgas-das-klima-retten-3044.html
 

連邦教育研究省(BMBF)が人文学・社会科学分野の小規模学科の支援を強化(6月27日)

アラブ圏の医学史から演劇学、経済史に至るまで、ドイツにおける人文学・社会科学分野のいわゆる小規模学科は多様性に富んでいる。連邦教育研究省(BMBF)はこうした小規模学科の支援を強化するため、「小さな専攻―大きな可能性」プロジェクトにより、革新的な研究に従事する小規模専攻の研究者を年間最大10人まで助成することとしている。 人文学・社会科学分野の小規模学科の研究者は、最近の政治的また経済的に重要な発展に資する研究課題に取り組んでいる。彼らは文化的、経済的そして社会的発展に関する豊富な知識を提供することで、また現在の課題に対して決定を下す際の根拠も提供しているのである。人文学・社会科学分野の小規模学科で取り組んでいることは、過去の専門知識を保護し、かつ現代のグローバルな課題を研究するための重要な礎となるものである。

BMBFは「人文学、文化学および社会学」というフレームワークプログラムの資金の約半分を、すでに小規模学科の研究者が参加している研究プロジェクトへ投入している。加えて、新たな「小さな専攻-大きな可能性」プログラムにより、今後3年間にわたり年間最大10人の小規模専攻の優秀な若手研究者が支援される予定である。支援期間は3年間で、ドイツの大学や研究機関に所属しながら、新しく革新的でかつ多様な研究課題に取り組むことができる。BMBFは本年度の助成に約1,000万ユーロを拠出する意向である。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/kleine-faecher-grosse-potenziale-3041.html
 

高等教育のデジタル化の現状と課題(6月27日)

ドイツの大学は、高等教育のデジタル化というトピックに積極的に取り組んでいることが、大学情報システム社の大学研究所の研究によって明らかになった。この調査は大学研究所が高等教育デジタル化フォーラムを代表し行ってきたもので、調査の対象はドイツのすべての州立・私立大学である。

調査の結果、73%の大学がデジタル的要素を伴った教育を拡充させていく方針を打ち出しており、36%の大学が対面講義とeラーニングコースを組み合わせた教育アプローチを指導ビジョンとして掲げていることが明らかになった。42%の大学が学生の達成度向上や教育の質向上あるいは家族との時間と勉学との両立させる能力強化を目的としたプログラムを改善するためのツールとしてデジタル教育を見なしている。対照的に、デジタル的要素を全く教育に用いないとしたのは、調査のうち2%の大学だけであった。デジタル教育を戦略的目標としていないのも15%だけである。

「ドイツの大学は、デジタル化の重要性を認識し、積極的に指導方法に組み込んでいる。それにもかかわらず、不十分な人員配置や財源配分がデジタル講義の拡張と発展を妨げている。このことは、この調査にも反映されており、調査対象大学の70%が最大の課題は人材の確保であり、また半分は財源が課題だとしている」とドイツ大学長会議(HRK)のヒップラー会長は述べた。

高等教育デジタル化フォーラムのワーキンググループ「ガバナンスとポリシー」の議長でありトリーア大学の学長であるイェッケル教授は、「調査の概略が示していることは、大学はデジタル化というトピックを意識しているが、その中身は、キャンパスの運営や教育綱領のようなインフラストラクチャーに向けられ、直接的な指導へ向けられているのはそれらよりも明らかに少ない、ということである。また、指導における持続可能なデジタル“強化”が大学と担当省庁内で十分に推進されていない、ということも明らかである。我々の抱えているイニシアチブが、大学の日常業務の中で一時的なプロジェクトとして立ち消えになることは許されない」と述べている。

大学間での連携や連合は、デジタル教育の分野で広く普及している。たとえば、州立大学のうち70%は少なくとも1つの他大学と協力している。大学はこの協力関係を拡張し、より活用していきたいとしている。半分以上の研究機関が大学間の教職員ネットワークの確立を希望し、約40%がデジタル教育サービスの相互利用モデルを開発したいと考えているのである。 この調査は、高等教育デジタル化フォーラムのワーキンググループ「ガバナンスとポリシー」ための定量的な調査として実施され、調査期間である2016年3月/4月までに合計200の大学から回答を得た。調査結果の詳細は参考URLより。

参考URL:https://hochschulforumdigitalisierung.de/organisationsstand-digital  

HRK: https://www.hrk.de/press/press-releases/press-release/meldung/digitalisation-in-higher-education-teaching-much-is-being-done-much-is-still-to-do-3991/
 

ドイツ大学長会議(HRK)がイギリスのEU離脱に対してコメント(6月24日)

6月23日に行われたイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票の結果について、ドイツ大学長会議のヒップラー会長は「大学にとってもEU離脱は深刻な転機を意味する」としたうえで、次のとおりコメントした。

「離脱というこの結果は、イギリスの大学はもちろん全ヨーロッパの高等教育機関および研究機関に大きなショックを与えただろう。ヨーロッパでの支援プログラムや交流プログラムについてイギリスを包含するための条件について、大がかりな話し合いは時間を要するし、こうした困難な過渡期に対して準備をしなければならない。

ドイツの大学とHRKにとっても、イギリスのEU離脱は手痛い転機になるだろう。我々はあらゆる点でとりわけイギリスとは密接な関係を保ってきた。ドイツとイギリスではヨーロッパでの研究支援を、質のみ基準として方針を定めるという重要な原理を共有している。また、研究や学生、研究者の交流に関する協力関係は非常に活発であり、国民経済と相互理解に対して肯定的かつ持続的効果がある。我々はイギリスとドイツをはじめ、全EUの大学間協力を変わらず継続するために、あらゆる努力を尽くすつもりである。

近いうちにEUとイギリス間の合意によって基盤が築き直され、学術的協力と学生交流において引き続き必要な支援がされることが望ましい。イギリスが反ヨーロッパという決定をしたとはいえ、ヨーロッパの高等教育領域における不利益を必要最小限に抑えるために、我々は政治的責任者へ訴えかけるであろう」

イギリスのEU離脱に関する国民投票に先立ち、英国大学協会(UUK)とHRKは6月2日の理事会でEU離脱に対して反対を表明していた。

HRK: https://www.hrk.de/presse/pressemitteilungen/pressemitteilung/meldung/hrk-praesident-zum-brexit-tiefer-einschnitt-auch-fuer-die-hochschulen-3981/
 

連邦政府と州政府首脳による新支援プログラムの合意に対しドイツ大学長会議(HRK)が安堵を表明(6月17日)

6月16日メルケル首相と州首相間でのエクセレンス戦略、若手研究者協定および「イノベーティブ大学」に関する合意を受けて、ドイツ大学長会議(HRK)のヒップラー会長は、安堵を表明した。

若手研究者協定およびイノベーティブ大学は、非常に重要な課題について補完的に対応するものであり、今後具体化させていくにあたり初期の段階で学術的な専門意見を必ず取り入れるべきである。

HRK: https://www.hrk.de/presse/pressemitteilungen/pressemitteilung/meldung/hrk-praesident-erleichtert-ueber-entscheidung-fuer-neue-foerderprogramme-3975/
 

ドイツ研究振興協会(DFG)とドイツ学術審議会(WR)はエクセレンス戦略に関する州と連邦の合意を歓迎(6月17日)

ドイツ研究振興協会(DFG)とドイツ学術審議会(WR)は、6月16日に連邦と州がエクセレンス戦略に関して合意に至ったことを歓迎した。

この決議されたエクセレンス戦略は、エクセレンス・クラスターおよびエリート大学の二つの助成枠を基盤としている。従来のエクセレンス・イニシアティブによる実績を拡充し、また、従来のエクセレンス・イニシアティブで得られた活力を学術制度内でさらに高めるであろう生産的な競争がこの基盤から発生するとされている。これはドイツの学術および学術制度全体にとって利益となるだろう。

従来のエクセレンス・イニシアティブと同様、エクセレンス戦略においてもDFGおよびWRが選考過程を担う予定である。

DFG: http://www.dfg.de/service/presse/pressemitteilungen/2016/pressemitteilung_nr_24/index.html
 

講義への出席義務に関する問題について、法律の制定は不適切であると指摘(6月15日)

近年ニーダーザクセン州、ノルトライン=ヴェストファーレン州、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州において議論されている高等教育法案の素案や、ザールラント州およびテューリンゲン州において改正準備されている法律が、大学自治を侵害するのではないかと懸念されている。

6月15日のベルリンでのドイツ大学長会議(HRK)の理事会において、講義の出席義務に関する問題については大学において対応されるべきであり、法律を定めることは不適切であると指摘された。

理事会後、ヒップラー会長は「大学には適切な法律が求められている」としたうえで、「学生たちはきちんと学ぶためには講義への出席が必要不可欠だと認識しており、これが事実であるかどうかは学生との対話によってのみはかりうるものである。法律を制定しようとしたところで、大学を不安定に陥れるか、もしくは非常に細かい実施規則をもたらす結果にしかならないだろう。いずれにしても、課程の質を保証するという目的を果たすものではない」と述べた。

HRK: https://www.hrk.de/press/press-releases/press-release/meldung/mandatory-attendance-is-a-matter-for-the-universities-3979/
 

学部卒業生と修士課程修了者に関する新しい進路調査結果が公表(6月9日)

連邦教育研究省(BMBF)の助成によるドイツ高等教育科学研究センター(DZHW)の最新の調査より、修士課程修了者の90%が修了後18ヶ月の間に就職先を見つけることが明らかになった。この調査にはカッセル大学国際高等教育センター(INCHER)が収集したデータも考慮されている。それによると、専門大学で勉強した学生は、修了後すぐに無期雇用の職を見つける割合が特に高いとのことである。

専門大学の学生の半分が初めて就職において無期雇用の契約を結んでいるが、それに対して総合大学の学生は有期雇用または試補制度(国家試験後の実習段階)に就くことが多い。

この調査では、総合大学・専門大学の学生は平均して3ヶ月半仕事を探すとあるが、2013年の卒業生はそれ以前の調査の結果よりも早く就職先を見つけている。専門大学の学部卒業生または修士課程修了者のうち、60%以上が修めた専門科目に関する職あるいは同等のレベルの職を見つけている。一方、総合大学の学生においては、その割合は学部卒業生が46%、修士課程修了者が76%である。産業別にみると、新社会人の40%以上が卒業した大学や学位にかかわらず、サービス業(研究、文化関係を除く)で働いている。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/fachhochschulabsolventen-finden-schneller-unbefristete-jobs-2978.html