ドイツ学術情報(過去の分)

2016年

エラスムス・プラスが迎える新しい挑戦(9月29日)

エラスムス・プラス(Erasmus+)の年次会において、欧州における難民問題やイギリスのEU離脱によって引き起こされる問題、西ヨーロッパの大学と東ヨーロッパの大学間の連携、エラスムス奨学生の国際的キャリア助成が主なテーマとなり、各関係機関の代表者は、エラスムス・プラスが欧州人としてのアイデンティティ形成にさらに役立つためにはどうすればよいか、また、欧州の連帯を強化するのにどうすればより貢献できるのか、といったことについて議論した。そのほかには、現行のエラスムス・プラスプログラムの進展も議論された。

DAAD: https://www.daad.de/presse/pressemitteilungen/2016/de/48971-erasmus-neue-herausforderungen-fuer-ein-bewaehrtes-programm/
 

エクセレンス戦略下におけるエクセレンス・クラスターの公募が開始(9月28日)

エクセレンス戦略の開始に際し、2016年9月28日、ドイツ研究振興協会(DFG)とドイツ学術審議会(WR)はエクセレンス・クラスターおよびエクセレンス大学の公募を発表した。当該公募は今年の6月中旬に連邦内閣閣僚および州政府首脳により決議されており、エクセレンス・イニシアティブの後継プログラムにあたるものである。エクセレンス・クラスターはDFGが、エクセレンス大学はWRがそれぞれ公募を担当する。

選考は二段階に分けて行われる。第一段階は、2017年4月3日を締切としたエクセレンス・クラスターへの一次申請である。一次申請は国際的な研究者から成る審査員によって評価され、2017年9月下旬に専門家委員会が選考結果を発表する。選考された大学は最終選考として本申請を行い、2018年9月に結果が発表される予定である。その後、第二段階としてエクセレンス・クラスターの採択数を満たした大学のみが2018年12月にエクセレンス大学の募集に応募することができる。エクセレンス大学の審査結果は、2019年7月に発表予定である。

DFG: http://www.dfg.de/service/presse/pressemitteilungen/2016/pressemitteilung_nr_44/index.html
 

ドイツ大学長会議(HRK)がインターンシップに関する報告書を発表(9月27日)

本日、ドイツ大学長会議(HRK)は、在学中に長期のインターンシップの経験を積んだからといって必ずしも職業能力の高い卒業生を労働市場へ輩出することに直結していないとする調査結果を発表した。

ほとんどの学士課程あるいは修士課程では学外でのインターンシップを必修としているが、多くの大学は理論と実践を組み合わせることや体系的な統合に苦労している。「多くの場合、インターンシップは単に課程の添え物にすぎず、貴重な勉学の機会を失っている。インターンシップを課程へ体系的に統合させることで、学修意欲を高め、学生を成功へと導くことができるだろう」と教育学研究者であるシューバルト教授は述べている。

報告書が提言するのは、インターンシップにさらに価値が与えられ、優れた教育の特徴として認識されるようにすることである。そうすれば、学生は実務を経験するとともに学術的な知識と最新の研究成果で職場に貢献でき、雇用者は専門家にアクセスすることができ、そして大学も、労働市場に備えて学術的に質の高い学生を訓練し、彼らにインターンシップの機会を与えることで、研究と教育への刺激を得ることができる。このように、優れたインターンシップはすべてに対して利益をもたらすものである、と述べられている。

HRKのヒップラー会長は、「質の基準は、大学と学生、雇用者と労働組合等のすべての関係者との間における話し合いによって決定されるべきである。理論を実践へ活用するには、インターンシップと現実社会に関するその他が体系的に学習課程へ組み込まれている必要がある。さらに、企業もやりがいのある仕事を与えるような十分に質の高いインターンシップを提供しなければならない」と述べている。

「インターンシップにおける質の基準―現状と提言―」では、専門家からの提言として、インターンシップの重要性の認識、インターンシップをカリキュラムに統合し適切に管理すること、インターンシップ終了後の証明と評価に関するルールの策定等の12項目が挙げられている。

HRK: https://www.hrk.de/press/press-releases/press-release/meldung/student-work-placements-report-calls-for-better-support-and-integration-4025/
 

連邦教育研究省がオープンアクセス戦略を開始(9月20日)

連邦教育研究省(BMBF)は、本日、包括的なオープンアクセス戦略を開始した。オープンアクセスとは、オンラインマガジンやウェブサイト、いわゆるレポジトリなど、インターネット上で学術出版物を誰もが無料で記事へアクセスでき、読むことができ、共有することができうるものである。この新しい取組みによって、ドイツの学術出版の標準モデルとしてオープンアクセスが定着することが見込まれる。

BMBFの新しい戦略の中心的な対策は、BMBFが助成するすべてのプロジェクトに対しオープンアクセスの条項を導入するということである。これによって、BMBFの支援を受けたプロジェクトから生まれる学術論文は、すぐにオープンアクセスモデルの下に出版されるか、公表禁止期間ののちに適切に公開されるかのどちらかとなる。この際、研究者はどの雑誌に公表するかといった選択は自由にできる。連邦政府はこのために、2014年1月にすでに学術論文の著者に対する二次的利用の権利を導入し法的な根拠を固めていた。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/freier-zugang-schafft-mehr-wissen-3340.html
 

「危機にある研究者のためのネットワーク」ドイツ部門が設立(9月20日)

本日、ボンで「危機にある研究者のためのネットワーク」(Scholars at Risk Network::SAR)ドイツ部門が設立された。SARは戦争や迫害等による学問の自由に対する侵害に対する反応をまとめ、注意を引くために、設立されたもので、40カ国400以上の高等教育機関が参加している。今回設立されたドイツ部門は、このうちのドイツを代表し、フンボルト財団(AvH)が2019年3月までドイツ部門の事務局を務める。

SARドイツ部門は、フィリップ・シュヴァルツ・イニシアティブも支援する予定である。これはAvHと連邦外務省の共同イニシアティブで、危機にある研究者にフェローシップを通じてドイツの大学での研究を支援するものである。こうした研究者を支援するにあたっては、AvHは研究者救援基金および危機にある研究者のための会議との提携を継続する予定である。

SARドイツ部門の設立メンバー:
バイロイト大学、アリス・ザロモン大学ベルリン、バード大学ベルリン、ベルリン経済法科大学、ベルリン自由大学、ベルリン国際精神分析大学、ビーレフェルト大学、ルール大学ボーフム、ボン大学、ダルムシュタット工科大学、ドレスデン工科大学、デュースブルク・エッセン大学、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン・ニュルンベルク、ゲッチンゲン大学、ハンブルク大学、カールスルーエ工科大学、ケルン大学、マンハイム大学、ジーゲン大学、テュービンゲン大学

AvH: https://www.humboldt-foundation.de/web/press-release-2016-21.html
 

OECD「2016年教育概要」においてドイツの職業教育システムが評価(9月15日)

各州文部大臣会議(KMK)と連邦教育研究省(BMBF)は、9月15日、OECDと共同でOECD「2016年教育概要」を発表した。当該報告において、ドイツの教育システムは先進的なものであることが証明された。

ドイツにおける高い就業率は、職業教育システムの強さと密接に関係しているものである。25歳から34歳までの半数以上(51%)が質保証された取組みとしての職業教育を選んでいるが、これはOECDの比較によれば二番目に高い数字である(OECD平均は26%)。このデュアルシステムを将来においても引き続き成功させるためには、デジタル化がますます進むことを考慮しても、職業教育が労働市場の新しい需要に答えることと、資格取得の可能性が注目を集めることになろうと予測される。

OECDの報告書は他にも、ドイツにおいては自然科学と工学が平均以上に好まれていることを示している。2004年の自然科学分野の卒業生の割合は、学士または同等の職業プログラムでは12%、修士は16%、博士は32%とOECDの平均(9%、8%、27%)を上回っている。特に工学分野においては、OECDの平均が13%、13%、17%であるのに対し、ドイツでは24%、16%、11%と平均以上であることが明らかとなった。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/berufliche-bildung-in-deutschland-leistungsstark-und-zukunftsweisend-3331.html
 

連邦内閣がアクションプラン「ナノテクノロジー2020」を閣議決定(9月14日)

連邦内閣は本日、連邦教育研究省(BMBF)が提出したアクションプラン「ナノテクノロジー2020」を閣議決定した。このアクションプランは、ナノテクノロジーに関する多様なアクションを管轄を越えて集約し、気候変動やエネルギー転換、デジタル化、モビリティ、インダストリー4.0といった主要な社会的課題に焦点を定めたものである。アクションプランの目的は、ナノマテリアルの安全かつ環境に優しく製造および利用することであり、同時に、ドイツの研究力および国際競争力を向上させることである。

BMBFは、今年度約1億9,000万ユーロをナノテクノロジー助成に拠出する。ドイツのナノテクノロジー分野では、工業やサービス、学術等の約2,200の機関が存在しており、その半数は工業が占めている。また75%が中小企業でもある。

アクションプランは、連邦政府の新しいハイテク戦略の一環であり、アイデアからイノベーションを創りだし、学術や研究、経済、社会を相互に結びつけようとするものである。将来におけるチャンスや研究戦略だけではなく、雇用創出もねらいの一つである。

アクションプランには、BMBF以外にも連邦労働社会省(BMAS)、連邦食糧農業省(BMEL)、連邦健康省(BMG)、連邦環境自然保護原子炉安全省(BMUB)、連邦防衛省(BMVg)、連邦経済エネルギー省(BMWi)も参加している。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/winzige-technologie-mit-maximaler-bedeutung-3327.html
 

ドイツ振興協会(DFG)が研究者のキャリアパスに関する調査結果を発表(9月14日)

ドイツ研究者国際ネットワーク(GAIN)の年次総会がアメリカのワシントンD.C.で開催され、ドイツ研究振興協会(DFG)による研究者のキャリアパスに関する調査結果が発表された。DFGのツヴォネク事務総長による講演内で、DFGのエミー・ネータープログラムとハイゼンベルクプログラムがキャリア初期の研究者にとって、その後のキャリア形成に効果的であることが調査結果から示された。

たとえば、エミー・ネータープログラムに2007年と2008年の間に採択された若手研究者のうち、63%の研究者が教授職に就いている。一方、採択されなかった研究者で教授職に就いたのは29%である。2001年から2003年に採択された若手研究者にまで遡れば、80%以上が教授職に就いていた。この傾向は、ハイゼンベルクプログラムにおいても同様に確認できる。2007年と2008に採択された者のうち、現在83%が教授職に就いている一方、採択されなかった者で教授職に就いているのは54%である。

一方で、これらの結果は、若手研究者協定等の政治的決定との関連性も考慮しなければならないだろう。若手研究者協定は、1,000のテニュアトラック教授職を設けるための資金を投資している。ツヴォネク氏は「エミー・ネータープログラム等により厳しい競争を勝ち抜き、現在に至るまで優秀な研究活動を行ってきた研究者に対して、プログラム終了後の2度目のテニュアトラック期間を追加することで、研究者としての下積み期間が延長されるということがあってはならない」と述べている。

この調査結果は若手研究者に対する追加プログラムを視野に入れ、1,000人以上の研究者を対象にして行われた包括的な調査の結果である。キャリアの成功という項目のほか、研究機関、分野や国の間における流動性、申請書の提出、DFGの他のプログラムにおける成功といった項目も含まれている。DFGのニューズレターに掲載されている。

DFG: http://www.dfg.de/en/service/press/press_releases/2016/press_release_no_41/index.html
 

連邦奨学金法(BaföG)の改正により奨学金支給額が増額(9月13日)

連邦奨学金法(BaföG)の改正により奨学金支給額が改善された。これにより基準額が7%上昇し、670ユーロから最大735ユーロへ引き上げられるほか、子供のいる奨学生に対し子供手当の引き上げ等が実施される。

大学生に対する奨学金の額は、2005年の13,415ユーロから2015年には56,000ユーロ以上と4倍になっている。2005年から2015年の間に、連邦政府は育英機関に対する助成を8,050万ユーロから2億3,260万ユーロへ増額したが、さらに2億4,390万ユーロへ引き上げられる見込みである。当該奨学金の支援を受ける大学生の総数は、2005年の約13,400人から2015年の約27,600人となり、さらにドイツ連邦奨学金による約24,300人の奨学生が助成を受けている。ほかにも、大学への進学を望む職業経験のある人々を対象とするキャリア向上支援奨学金が2008年から始まっており、2015年には約4,360人が支援された。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/mehr-geld-fuer-stipendiaten-3320.html
 

連邦教育研究省がドイツ企業の職業教育等におけるデジタルメディアに関する初の調査結果を公表(9月9日)

連邦教育研究省(BMBF)は、職業教育とその後の継続的な教育におけるデジタルメディアの重要性に関する初の調査結果を発表した。BMBFの委託により連邦職業教育研究所(BIBB)とTNSインフラテスト社が実施した、ドイツの3,000の企業を対象としたデジタルメディアの利用に関するアンケート調査の結果を受けてのものである。

「企業におけるデジタルメディア――その現状と未来――標本調査による現状分析」と題された今回の調査により、初めて企業の職業訓練やその後の継続的な教育におけるデジタルメディアの利用度が、業界や企業規模、地域によってどの程度違うのか、企業がデジタルメディアの将来的な重要性をどの程度評価しているのか、といった概観が明らかとなった。その結果、アンケート調査に参加した企業の半数が職業訓練を受けた人のIT知識が不十分であると評価し、IT知識を非常に高いまたは高いと評価した企業は3割以下であったことが分かった。一方、調査に参加した企業の多数は、今後3年間において、すべての業務においてデジタルメディアの重要性がさらに高まるとみている。

BMBF: https://www.bmbf.de/de/wanka-wir-brauchen-eine-berufsbildung-4-0-3306.html
 

ノルトライン=ヴェストファーレン州の大学における難民支援プログラムが2017年より実施(9月4日)

難民のノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の大学への進学を支援する「ノルトライン=ヴェストファーレン州の大学進学への道」が2017年から実施されることとなった。この新しい助成制度の枠組みによって、大学は進学を望む難民の相談を受けたり、勉学面をサポートする大学職員を増員させ、難民のためのサポートセンターの設立や既存の外国人学生向けサポートセンターの負担を軽減できることが見込まれる。

このプログラムの主要事項については、4月にNRW州イノベーション・学術研究・科学技術省およびNRW州大学長会議によって発表されており、実施にあたってはドイツ学術交流会(DAAD)が担当する。当該プログラムは大学を支援するもので、NRW州の34の国立大学や州から助成を受けている私立大学がその対象となる。このプログラムのもと、大学は、進学を希望する難民のための課程準備コースやサポートコースの設立または増設、必要とされる相談窓口、履修分野、語学の準備コースやサポートコースのさらなる充実に関する追加費用をDAADへ申請できるようになる。年間上限3億ユーロが当該プログラムへ投資される。 通常の外国人学生とは異なり、難民はドイツ入国前にドイツの大学制度や進学の可能性などについて十分な情報を得る機会に乏しい。このため、難民への支援が必須とされるのである。

NRW州はドイツの州の中で人口密度が高く、難民の総数も最も多い。2015年だけでも23万人以上、2016年7月までにさらに6万5,000人の難民を受け入れている。

DAAD: https://www.daad.de/presse/pressemitteilungen/2016/de/46344-integrationsmodell-von-fluechtlingen-an-hochschulen-in-nrw-wird-umgesetzt-jaehrlich-0-mio-euro-vom-land/