ドイツ学術情報(過去の分)

ザッテルベルガー政務次官:研究移転は私たちにとって重要である(3月22日)

BMBF(Bundesministerium für Bildung und Forschung:ドイツ連邦教育研究省)の検証プログラムVIP+は、優れた研究成果の実践への目覚ましい移転を表彰した。

本日ベルリンで開催されたVIP+イノベーション会議2022において、研究成果を革新的に応用した模範的な方法として、3つのプロジェクトが連邦教育研究省から表彰された。

これに関して、トーマス・ザッテルベルガー政務次官は次のとおり説明する。
「研究は未来の価値創造のための基礎であり、同時に質の高いヘルスケアを保証するものである。このことは新型コロナウイルスの世界的流行においても明らかになった。卓越した研究と多くの優れたアイデアが本物のイノベーションになるには、研究成果が実践に至ることが非常に重要である。研究移転は私たちにとって常に重要である。そのため、連邦教育研究省は、VIP+プログラムにより研究成果の経済的な活用と社会的な応用への移転を奨励する。採択されたプロジェクトは、研究成果が迅速に、そして多くの市民や企業のために利用できるという点で共通している。表彰された3つのプロジェクトは、革新性により、それぞれの分野の真の先駆者であるだけでなく、より良いヘルスケアあるいはより持続可能な製品への可能性を有する。」

背景:

経済的または社会的イノベーションの道を舗装し、加速させる-これは連邦教育研究省(BMBF)が、助成プログラム「科学研究の技術的及び社会的イノベーションの可能性の検証(VIP+)」において目標とするところである。表彰されたプロジェクトは、例えば、「心臓ズボン(Herzhose)」がどのようにコロナ患者の脚の血行不全を軽減するか(AngioAccel)、病院において特定の耐性菌に対していかに抗生物質を作用させるか(aBACTER)、あるいは、プラスチック包装の材料とエネルギーを大幅に削減するために、対象の加熱プロセスがどのように役立つか(CeraHEAT)ということを示す。

表彰された3機関は、以下のとおりである:

ミュンヘン工科大学
プロジェクト:aBACTER-致死性感染症治療のための耐性菌の無い抗生物質の前臨床開発
研究チームは、実際にがん治療に使用され、抗菌作用を持つ薬剤が、化学修飾することで、多剤耐性菌に対して効用を示すことを発見した。チームは、その研究において化学、細胞生物学、質量分析の方法を組み合わせた。「aBACTER」プロジェクトは、VIP+プログラムにおいて、心臓内膜の炎症を治療する抗生物質開発に向けてこれらの成果の有効性を確認した。aBACTERの成果を長期的に継続するために、このプロジェクトからsmartbax社が設立された。多剤耐性菌は、世界中の多くの病院で急速に増えている問題である。このようにaBACTERプロジェクトによるイノベーションは、世界中のヘルスケアを進歩させ、多くの命を救う可能性を持つ。

ブランデンブルク医科大学
プロジェクト:AngioAccel-アンテパルセーション(Antepulsation)による末梢閉塞性疾患(pAVK)の非侵襲的治療:脚の生物学的バイパスのための革新的なコンセプト
AngioAccelの治療コンセプトは、ECG(心電計)制御カフを使ったいわゆる「心臓ズボン(Herzhose)」の力を借りて、末梢閉塞性疾患(pAVK)つまり脚の血行不全の患者の血流を増加させることである。その結果、患者の運動能力は明らかに向上する。VIP+プログラムにおけるAngioAccelプロジェクトの目標は、この疾患のある患者の治療コンセプトの有効性を確認することであった。プログラムで実施された研究は、大成功を収めた。患者の生活の質と運動能力は大幅に向上し、歩行距離を最大500%まで伸ばすことができた。

フラウンホーファー加工機械・包装技術応用センター(AVV)及びドレスデン工科大学 プロジェクト:CeraHeat-効率的かつ高速な、接触型空間分解表面加熱プロセスの開発
フラウンホーファーAVVとドレスデン工科大学は、プラスチック包装製造のための新しい加熱システムを開発した。これによりエネルギー消費量を大幅に削減しながら成形プラスチック製品の品質を向上させられる。これはとりわけ、プラスチック製品の表面を急速かつ狙いを定めて加熱させることで実現する。局所加熱の原理は、多数の小さな加熱ピクセルに基づく。CeraHeatプロジェクトでは、VIP+プログラムのなかで新しい技術が産業に即し条件下で使用可能かどうか検証され、大きな成功を収めた。このイノベーションにより、包装プロセスにおいて少なくとも30%の材料とエネルギーを節約することができる。連合の一つの焦点は「知識起業家(Knowledge Entrepreneurialism)」というコンセプトである。パートナー大学は、高い水準の専門家のみでなく、変革の力強い主体の役割を担う欧州の知識起業家をトレーニングするため、彼らの地域からの重要な関係者とともに協力したいと考えている。プロジェクトの重要な施策は、海外滞在期間の認識と単位認定を簡素化することを目的とした、ネットワークにおける管理プロセスのデジタル化である。

BMBFは、助成プログラム「科学研究の技術的及び社会的イノベーションの可能性の検証 (VIP+)」を2015年に開始した。このプログラムは、卓越した技術的及び非技術的な研究成果を、後に応用又は活用に関して検証する研究者たちを支援する。プロジェクトは、例えば高度に経済的あるいは社会的利益をもつ応用分野において、その研究成果が実用・実現可能かどうかを検証する。このようにVIP+は、すべての参加機関における成果移転の強化にも寄与している。VIP+の開始以来、175のプロジェクトが承認され、助成額は2億ユーロ近くにのぼる。VIP+による各助成終了後の5年間で、かつてのプロジェクトのほぼ3分の1が起業につながった、あるいは起業段階にある。VIP+プログラムでの研究をもとに、助成終了したプロジェクトの5分の1以上で新しい特許が出願されている。

https://www.bmbf.de/bmbf/shareddocs/pressemitteilungen/de/2022/03/220322-Validierungspreise.html

 

DFGは新たに8つの優先プログラムを立ち上げる(3月28日)

テーマは水素燃料から電池研究、地球磁場の変化まで / 3年間で約5300万ユーロを提供

ドイツ研究振興財団(DFG)は、2023年に向けて8つの新しい優先プログラム(SPP)を立ち上げる。DFG評議会がバーチャル会議で決定した。29件の取組の中から8件の新しいコンソーシアムが選ばれ、最初の3年間で総額約5300万ユーロが支給される。さらに、プロジェクトの間接経費として、22%のプログラム手当が支給される。
今回承認されたプログラムは、工学から生命科学、自然科学に至るまで、幅広い分野をカバーしている。エネルギーシステムの変革に貢献する水素燃料の研究、エネルギー転換に貢献し得るカルノーバッテリーと呼ばれる技術の研究、地質学における地球の磁場変化の分析などのテーマを含む。各プログラムは、それぞれの優先プログラムの一般的なテーマを反映している。科学的な質と各主要テーマへの貢献度の観点で資金提供の提案を審査する前に、DFGは今後数か月で個別にコンソーシアムについて広報する。
優先プログラムの目的は、特に話題性のある研究、あるいは新興の研究領域の科学的な根拠を調査することにある。すべてのプログラムは明らかに学際性を有し、極めて革新的な手法を用いている。優先プログラムは6年間資金が提供される。

新優先プログラムの詳細(コーディネーターの大学名アルファベット順)

・優先プログラム「高性能機器用コーティング工具の品質保証のためのグレーボックスモデル」(コーディネーター:Kirsten Bobzin教授、アーヘン工科大学(RWTH Aachen))
・優先プログラム「エネルギー転換の実現への貢献:水素ベースの再生可能燃料の柔軟な使用のための熱化学エネルギー変換プロセスの添加剤製造プロセスによる最適化」(コーディネーター: Heinz Pitsch教授、アーヘン工科大学(RWTH Aachen))
・優先プログラム「LOOPS:適応的認知のための皮質-皮質下相互作用」(コーディネーター:Livia de Hoz博士、シャリテ-ベルリン医科大学(Charité – FU Berlin und HU Berlin))
・優先プログラム「カルノーバッテリー:市場から分子までの逆設計」(コーディネーター: Burak Atakan教授、デュースブルク-エッセン大学(Universität Duisburg-Essen))
・優先プログラム「地質時代にわたる地球深部ダイナミクスの再構築(DeepDyn)」(コーディネーター:Stuart Alan Gilder 教授、ミュンヘン大学(LMU München))
・優先プログラム「CodeChi-キチン、キトサン、キトオリゴ糖と細胞外マトリックスのタンパク質との相互作用および細胞内シグナル伝達経路」(コーディネーター:Hans Merzendorfer教授、ジーゲン大学(University of Siegen))
・優先プログラム「成形技術におけるデータ駆動型プロセスモデリング」(コーディネーター:Mathias Liewald教授、シュトゥットガルト大学(Universität Stuttgart))
・優先プログラム「流体力学における双曲型保存則:複雑性、 規模、ノイズ (CoScaRa)」(コーディネーター: Christian Rohde教授、シュトゥットガルト大学(Universität Stuttgart))

https://www.dfg.de/service/presse/pressemitteilungen/2022/pressemitteilung_nr_05/index.html

 

DFGは新たに9つの研究グループに資金を提供する(3月28日)

研究課題は多発外傷研究や生体を模倣した酸化触媒反応研究、森林土壌の腐植層研究と幅広い/最初の期間で総額約3,800万ユーロの資金を提供する

ドイツ研究振興協会(Deutsche Forschungsgemeinschaft: DFG)は新たに9つの研究グループを立ち上げる。これは2022年3月25日に、評議会の推薦によるDFGの合同委員会がバーチャル会合で決定した。新たな研究グループは、間接経費のための22%のプログラム手当を含めて総額約3,800万ユーロの資金を受給する。これら9つの研究グループに加えて、7つの研究グループへの助成期間延長も決定された。助成期間が延長された研究グループの一つには、オーストリア科学財団(FWF)、スイス科学財団(SNSF)と南チロルのボルツァーノ自治州 (Autonomen Provinz Bozen-Südtirol)との、ドイツ-オーストリア-スイス(D-A-CH)協力の枠組みによって資金が供給される。
研究グループは、科学者が研究領域における現在喫緊の課題に取り組んだり、革新的な方向性を確立したりすることを可能にする。最大8年間資金が提供される。さらに、発展研究センターは特に人文科学や社会科学で必要とされる構造に適合している。一方、臨床研究グループは研究と臨床活動の密接な結びつきに特徴がある。総じて、DFGは現在174の研究グループと14の発展研究センターおよび14の臨床研究グループに資金を提供している。

 9つの新たな研究グループの詳細(発言者の所属大学のアルファベット順)

「不均質モデルのボリューム・トランジションカップリングのための構造保存型数値計算法」の研究グループは、磁化プラズマ、複雑流体、電気化学プロセスを表す結合系のモデリングとシミュレーションを専門としている。カップリングされたシステムでは、選択された物理領域の同じ領域で複数のプロセスを考慮したり(ボリュームカップリング)、領域の異なる部分で使用される数学モデルを共通の境界で結合したり(トランジションカップリング)する。その目的は、基礎となる連続モデルの重要な構造的特性を保証する効率的な数値計算法を開発し、高性能コンピュータに実装することである。(発言者:Manuel Torrilhon 教授、アーヘン工科大学(RWTH Aachen))

気候変動防止の目標を達成するためには、石油や天然ガス、石炭由来の非再生可能な炭化水素資源の効率的な利用方法が見つけられるべきである。これには、酸素や過酸化水素といった環境に優しく普遍的な酸化剤を、穏やかな条件下で産業的に重要な化学物質の製造に適用するための新たなコンセプトが必要である。そのため、「鉄錯体を用いた生体を模倣した酸化触媒反応」の研究グループは、単純な炭化水素やより複雑な有機基質の酸化をより効率的に行うための生体を模倣した均質触媒の開発に専念している。 (発言者:Thorsten Glaser教授、ビーレフェルド大学(Universität Bielefeld))

多発外傷とは、例えば重大な事故によって、身体の複数の部位や器官系が同時に損傷することである。重傷は二次的な疾病や死亡率の上昇につながる。しかしながら、このような相互作用を十分に説明したり、予測したりすることは未だできていない。ドイツの5つの主要な外傷センターが参加する研究グループ「予後を改善するための診断・治療ツールを提供する橋渡しの多発外傷研究」は、この問題に専念している。このグループは、多発外傷患者の新たなメカニズム、バイオマーカーの可能性、治療の方策を明らかにすることを目的としている。これらは、外傷後のケアにおいて早期かつ日常的な検診に使用され、臨床現場への適合性を検証されるものである。(発言者:Ingo Marzi教授、フランクフルト大学(Universität Frankfurt/Main))

腐植層は、森林生態系の地上部と地下部の境界面を形成し、さまざまな生物の生息地となる。また、植物の苗床や根を張るための場となり、有機物、養分、水、気候ガスなどを蓄え、吸収し、変化させる生態系の中枢として機能する。研究グループ「腐植層:機能、動態、変化における脆弱性」は、ヨーロッパのブナ混交林の12カ所において、この土壌層のまだ解明されていない機能と、気候変動におけるその変化を分析することを目的としている。中心的な論題は、ヨーロッパの森林の土壌特性は、土壌の栄養成分に対する生物の適応によって形成されており、気候温暖化の影響は、これらの適応との相互作用にかかっているというものである。 (発言者: Friederike Lang 教授、フライブルク大学(Universität Freiburg))

移住のプロセスによって特徴づけられる社会では、今日、行為者は自己理解と自己の利益を定義し、明確に表現するために、しばしば人権規範に言及している。これは、研究グループ「移民社会における人権講話(MeDiMi)」の仮定であり、「Vermenschenrechtlichung」(人権化)と呼ばれるこの現象の範囲、形態、結果を扱っている。この現象は、法律的および政治的または社会文化的な行動指針において調査される。選ばれた10分野を分析することで、現代社会、特にヨーロッパ社会における人権の役割について新たな理解を得ることができるようにすることを目的としている。 (発言者: Jürgen Bast 教授、ギーセン大学(Universität Gießen))

基礎研究の観点から、研究グループ「次世代機能性自己修復材料-エネルギー貯蔵・変換用ソフトマテリアルの光電子・輸送特性の回復(FuncHeal)」では、柔軟で自己修復可能なエネルギー貯蔵や材料転換のための新しい観点に焦点を当てている。しかし同時に、有機太陽電池のような応用分野への道筋や課題も浮き彫りにされ、研究の技術的意義が展望できるようになる。従来のアプローチとは対照的に、亀裂や損傷を「修復する」だけでなく、複雑な材料系の機能や特性を回復させることを目的とした研究を行っている。(発言者: Ulrich S. Schubert教授、イエーナ大学(Universität Jena))

光子-光子相互作用は、既知のすべての素粒子とそれらの間の重要な相互作用をまとめた、いわゆる素粒子物理学の標準モデルにおいて中心的な役割を担っている。しかし、これらの効果を正確に計算することは、量子の世界の特殊性から、必ずしも直接的に可能とは限らない。研究グループ 「標準モデル内外での光子-光子相互作用 - MESA から LHC への発見の可能性の開拓」は、これらの相互作用の理解を深め、ハドロン物理と素粒子物理全体を大きく発展させることを目標としている。この基礎となるのが、マインツにある新しいMESA加速器とジュネーブにある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使用した測量である。(発言者: Achim Denig教授、マインツ大学(Universität Mainz))

研究グループ「長距離相互作用を持つ量子スピンシステム:実験、理論、数学」では、長距離相互作用を持つ量子多粒子システム、つまり極めて狭い距離に限らず互いに影響し合うシステムに関する問題を取り扱っている。実験、理論、数学のことである。 このグループは、このようなシステムをよりいっそう理解し、長期的には、狙った方法で制作・制御し、その特性を計測学やセンサー技術などの量子技術応用に利用できるようにしたいと考えている。(発言者: Igor Lesanovsky教授、テュービンゲン大学(Universität Tübingen))

近年、地域の多様性、すなわち生態系における景観に分布する生物群集の異なる種の多様性が、土地利用の増加により、均質化しつつある。研究グループ「生産林の多様性と多機能性を高めるための林分間の構造的多様性の増加」は、一方ではこの均質化の影響を評価し、他方ではその悪影響を逆転させるための戦略を開発することを目標としている。特に、構造的な複雑さを改善することによって、以前は均質的だった生産林において生物多様性と多機能性を高めることができるのかどうかということである。このために、ドイツで11カ所の林分が選ばれた。(発言者: Jörg Müller教授、ヴュルツブルク大学(Universität Würzburg))

7つの研究グループムが2回目の資金助成期間を延長(発言者の大学のアルファベット順で、DFGのインターネットデータベースGEPRISにある現在の助成金に関するプロジェクトの説明を参照)

研究グループ「宇宙重力ミッションによる気候変動の新しい精密観測(NEROGRAV)」(発言者: Frank Flechtner教授、ベルリン工科大学(TU Berlin))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/388296632

臨床研究グループ「がんの表現型治療と免疫抵抗性(PhenoTImE)」(発言者: Dirk Schadendorf教授、デュースブルク-エッセン大学(Universität Duisburg-Essen)、臨床責任者: Alexander Roesch教授、エッセン大学病院(Universitätsklinikum Essen))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/405344257

研究グループ「1850年以来の気候変動に対する高山帯の地質システムの感度(SEHAG)」(発言者: Michael Becht教授、アイヒシュテット-インゴルシュタット大学(Universität Eichstätt-Ingolstadt))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/394200609

この研究グループには、オーストリア科学財団(FWF)、スイス科学財団(SNSF)と南チロルのボルツァーノ自治州(Autonomen Provinz Bozen-Südtirol)とのドイツ-オーストリア-スイス(D-A-CH)協力の枠組みによって資金が供給される。

発展研究センター「宗教と都会性:相互形成(UrbRel)」(発言者: Susanne Rau教授、エアフルト大学(Universität Erfurt))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/392820287

研究グループ「染色体の不安定性:DNA複製ストレスと有糸分裂機能障害の機能的相互作用」(発言者: Holger Bastians教授、ゲッティンゲン大学(Universität Göttingen))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/395736209

研究グループ「火山が大気や気候に与える影響の再考-次の巨大噴火への備え」(発言者: Christian von Savigny教授、グライフスヴァルト大学(Universität Greifswald))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/398006378

研究グループ「高強度フロンティアでの量子真空の探求」(発言者: Holger Gies教授、イエーナ大学(Universität Jena))
外部リンク:https://gepris.dfg.de/gepris/projekt/392856280

https://www.dfg.de/service/presse/pressemitteilungen/2022/pressemitteilung_nr_06/index.htm

 

「ネットワーク全体が必要」(3月30日)

 Andrea Löther氏は、フンボルト財団の委託を受け、国際的なモビリティとドイツでの研究滞在に魅力を感じるかどうかという視点を持って、国際的に活躍する女性研究者の可能性と需要を分析する研究を主導した。以下は、アクセス、障壁、多様性を通じた卓越性をより評価される機会についての対話である。

Lötherさん、「アクセス、障壁、女性科学者の国際的なモビリティの可能性」についての研究を実施するとき、何に最も驚きましたか。
Andrea Löther氏:かなり驚きがありました。最大の驚きの一つは、国際的に活躍する優秀な女性を研究滞在させるためには、ドイツのアカデミックホストがいかに重要であるかということです。

説明していただけますか。
男性は男性と、女性は女性と共同研究することが多い傾向にあります。これはフンボルト財団のネットワークでも同様です。これを変えるには2つのアプローチがあります。財団がホモソーシャルな連携を活用し、ドイツの女性科学者をホストとしてますます活動させることによって、より多くの女性科学者をゲスト科学者としてそのネットワークに引き入れられるようになります。他方で、財団は、既に Henriette Herz Scouting Programm で行っているように、男性科学者に対して、若い女性科学者を共同研究相手として認識、指名、指導するよう特に促進することができます。

ホストがスカウトマンになり、最大3人の国際的な若手科学者をフェローシップに直接採用し、最初の候補を女性科学者にするというアプローチはいかがでしょうか。
そのプログラムは、とても良いやり方です。私のアドバイスは、女性科学者を積極的に探すよう参加者に促す同様の仕組みを、他の助成金プログラムにも取り入れるということです。この研究で調査したフンボルト財団のプログラムの採択率では目立った男女差は見られませんでした。これは申請あるいは推薦される前に多くの事項が決定されるということ、言い換えれば特定の共同研究プロジェクトがどのように生まれるか、ということを表しています。

この関連で何か特別なパターンを見つけましたか。
はい。共同研究は個人的な結びつき、推薦あるいはネットワークに基づくことが多くあります。基本的にはドイツでホストを見つける機会は、あなたが自国で、ドイツと良い関係性のあるメンターを見つけられるとば増加します。ほとんどの場合、ドイツの研究者は多くのメンター要請を受けるため、選考せざるを得ません。しかし、その際の基準には無意識のバイアスが含まれていることがあり、結果的に構造的な排除パターンを強めてしまうことがあります。個人的なつながりや信頼できる人からの推薦が決め手となることも頻繁にあります。

このような補強の例はあるのでしょうか。
例えば、ある地域からの依頼は、他の地域よりも早く処理される傾向があります。アフリカの大学の女性研究者は、アメリカの有名大学の研究者よりも常に注目されにくいです。

しかし、厳密に言えば、男性科学者にも同じことが言えます。
そうです。しかし、女性科学者の場合、こうした要因を補填するために必要な推薦や人脈を得るときのハードルはより高くなります。これは、調査した14カ国すべてで見られることです。女性科学者は研究のための経済的・時間的資源のみならず、古くから人脈交換の場と考えられている学会のようなネットワーク形成のためのこうした資源も少ない仕事に就いている傾向にあります。また、女性科学者がそのようなイベントにあまり参加しなければ、さらに注目されにくくなるかもしれません。

これをどう考えますか。
男性科学者の方がより多くの講演機会を得る傾向があり、科学者は男性科学者の講演に出席する傾向があります。また、これまでの研究では引用に関しても同様のことが示されています。そのため、常に「自分は誰を認識しているのか。誰の話を聞いているのか。」という疑問に繋がる。女性科学者の科学的業績は、まだ認知度が低いです。これが、我々の研究で卓越性という概念に大きく注目した理由の一つです。

卓越性という概念の何が問題なのでしょうか。
卓越性は中立的な概念ではないことを意識することが重要です。女性科学者は自分が卓越していると認識しにくいですが、逆も然りです。女性科学者は男性科学者に比べて、科学的業績の認識において卓越していると見なされる確率が明らかに低いことが示されています。これは、専門分野の立ち位置、分野の指向、方法論的アプローチ、能力帰属における基本的パターン、出身地域の科学システムの評判など、多くの要因と関連しています。

ここで何ができるでしょうか。
ドイツでは、研究での議論において、卓越性と男女共同参画政策との間で目標がしばしば衝突します。幅広い層から採用するほど、卓越した人材を獲得できる、ということを我々は理解するべきです。知性や創造性のような資質が正規分布していると仮定した場合、平等と多様性に配慮しなければ我々は膨大な可能性を見落としてしまいます。

フンボルト財団が実現できることは何だと思いますか。
第一段階として、男女共同参画政策は通常女性自身に焦点を当て、彼女たちを可視化し、意識を高めることに努めます。我々もフンボルト財団でこのことを観察しています。次の段階は、構造的かつ制度的なレベル、つまり疑いなく厚い板です。財団が既に着手している学術的な卓越性と多様性の関係性のような課題を進展させるために、全体的なネットワークが必要です。

どういうことでしょうか。
フンボルト財団のような組織は、ドイツの科学システムの一部であり、そのなかに統合されています。ある程度、システムが設定した障壁とともに生きているのです。しかし、財団は、プログラムの設計、アクセス方法の策定、受入機関へのアプローチの仕方などで、その形成に寄与することもできます。同時に、助成金受給者や同窓会を通じて彼らの出身地域の状況に影響を与える機会までもあります。この相互作用の中で、財団は多くのことを成し遂げられると確信しています。

調査対象地域を見ると、高い能力を持ち、国際的に活躍する女性研究者が、より良くドイツでの研究滞在を送るには何をすればよいのでしょうか。
デュアルキャリアというのは大きな話題で、その大きさはまた別の驚きです。これらの対象グループの女性科学者は、男性科学者に比べて子供を持つことが少ない傾向にあります。パートナーと生活している場合は、それぞれの職業やキャリアを持ったパートナーと一緒のことが多いです。研究滞在中の同居をどうするかということは、中心的な問題です。もちろん、誰もパートナーのために仕事を確約できません。しかし、我々の調査によれば、ドイツの求人市場に関する基本的な情報は役立つことが多いようです。大学は既にこのサービス提供に力を入れています。しかし、その需要がいかに大きいか、さらに意識を高めるべきです。

子ども手当など家族手当の需要はいかがでしょうか。
フンボルト財団のプログラムでの調査によれば、女性科学者よりも男性科学者の方が頻繁に家族手当を利用しています。これは、すでに述べた人口動態によるものです。ここで区別しておくべきですが、家族手当はもちろん正当かつ重要です。我々は受給者グループを、結婚していない異性及び同性のパートナーシップ、その他の同伴家族も含む形に拡大することを勧めています。
特に、誰が子どもの世話をするかという問題に関しては、地域によって家族モデルやニーズが大きく異なります。しかし、家族手当は家族を持つ研究者の参画に役立つものであり、明確に女性科学者の参画に役立つものではありません。

https://www.humboldt-foundation.de/entdecken/newsroom/aktuelles/es-braucht-das-ganze-netzwerk

 

科学の自由は社会の鏡である (3月31日)

2022年の学問の自由度指数(AFI)のデータ分析がエアランゲン-ニュルンベルク政治学研究所(Institut für Politische Wissenschaft FAU Erlangen-Nürnberg)とヨーテボリ大学(Universität Göteborg)の多様性民主主義(V-Dem)研究所によって作成された。

学問の自由度指数は、世界の学問の自由を調査している。このデータは、近代の高等教育の始まりにさかのぼる。また、DAAD(ドイツ学術交流会:Deutscher Akademischer Austauschdiens)は、この分析結果を、高等教育機関へ国際的な学術協力についてアドバイスするときに用いている。

 2021年は、学問の自由にとって特に良い年ではなかった。現在、世界の5人に2人が、学問の自由がいっそう制限されている国に住んでいる。これは、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン-ニュルンベルク校(Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg :FAU)とイェーテボリ大学の多様性民主主義(V-Dem)研究所の研究者がまとめた「学問の自由度指数(AFI)」の最新データ分析で示されたものである。この調査によれば、過去10年で学問の自由が目立って改善されたのは、ガンビアとウズベキスタンのたった2カ国である。一方、19カ国では、明らかに減少傾向にある。その中には、ロシア、トルコ、インド、ブラジルなど、近年、民主主義が着実に失われている国も含まれる。「独裁的な政権の強化に伴い、学問の自由も揺らいでいる。この関係性にはほとんど驚きはない。我々はポピュリズムとナショナリズムの高まりが、はっきりと痕跡を残していることを非常に懸念している」とFAU エアランゲン-ニュルンベルク政治学研究所のLars Pelke博士は説明している。学問の自由については、アメリカやイギリスでも後ろ向きな傾向がある。研究プロジェクトや研究対象への選択的な資金提供は、特に選挙運動において重要な権力の道具であると政治学者は言っている。

2,000人以上の国別専門家が参加
イタリア、ラトビア、スウェーデン、スロバキア、ドイツが「学問の自由度指数」において上位グループを形成している。ミャンマー、シリア、北朝鮮はランキングの最下位にいる。特に悲惨なのは、2021年の軍事クーデターまでは、ミャンマーが上位に入る傾向があったことである。学問の自由度指数の評価には5つの指標として、研究と教育の自由、学術的・文化的な表現の自由、学術的交流の自由、キャンパスの健全性、大学や研究機関の機関自治が含まれる。177か国の評価は1900年までさかのぼることができ、2000人以上の国別専門家によるものである。1年で国ごとに平均10回の評価が行われる。「彼らはたいていその国に住んでいたり、その国の科学システムに通じた研究者である」とPelke氏は説明する。彼ら自身の大学のシステムについて述べることはキャリアに影響しうるため、彼らは匿名化される。学問の自由度指数の全データは、民主主義国家のデータと同様にv-dem.netでオンラインで入手でき、全世界の研究者が自由に利用できる。Pelke氏によれば、そのデータの他の重要なターゲットは大学の経営陣と政治的な決定権を有する人たちである。例えば、学問の自由度指数は新たな大学との協力について、根拠に基づいた決定を下すことに役立つ可能性がある。

研究者の指針となる信頼性の高いデータ
DAADの戦略担当ディレクターのChristiane Schmeken氏は、DAADもまたエアランゲンとヨーテボリによるデータを好んで利用していると確認している。例えば、学問の自由度指数は、DAADの国際学術協力コンピテンスセンター(KIWi)が発行する、KIWi コンパス「Keine roten Linien – Wissenschaftskooperationen unter komplexen Rahmenbedingungen」の一つの情報源になっている。その刊行物は大学や研究機関での責任者に向けて、科学的な協力の機会と危険性の評価基準を与えるものである。さらに、DAADの職員による評価とAFIなどの研究に加えて、コンパスは、外務省の旅行・安全アドバイスなどの他の無料で手に入る情報源にも参照している。
「特に、世界政治がこのように困難な時期には、学術的協力のための信頼性の高い評価基盤が非常に重要である」とSchmeken氏は言っている。AFIランキングである国がどのようにふるまうかということは多くの面で一つの基準になる。例えば、あるプロジェクトにおいてどの研究成果が共同で達成できるか、信頼関係がかなうかどうかということも重要である。この理由で、DAADは収集したデータと事実だけではなく、対話の中でのアドバイスも高等教育機関に提供している。

自由な対話の場を創造する
しかしDAADはドイツの大学や研究機関にアドバイスするだけではない。国際的な協力機関との協力関係の可否決定も要望されている。真実の対外科学政策の精神で、独裁政権下でも、可能な限りコミュニケーションチャネルをオープンのままにし、協力を継続することをDAADは主張している。なぜなら、このようにして自由な対話と相互理解の場が作り上げられるためである。これはその国で教育にアクセスすることを拒否されている社会集団に至るための唯一の手段である。Schmeken氏曰く、このアプローチに限界があるという事実は昨今何度か証明された。例えば、DAADは現在アフガニスタンあるいはロシアの政府機関と協力する可能性はないと考えている。学問の自由度指数については、「学問の自由がある程度まで低下すると、たとえ政治的なレベルでは明らかには目に見えなくても、社会は悪循環に陥る」と彼女は補足している。AFIランキングの低下は、大学や研究機関での意思決定者に対する早期警告システムの一種にもなり得る。

https://www2.daad.de/der-daad/daad-aktuell/de/82077-die-wissenschaftsfreiheit-ist-ein-spiegel-der-gesellschaft/