ドイツ学術情報(過去の分)

BMBFとBMWKがグリーン水素とグリーンケミストリーのためのジョイント・コールを開始(10月4日)

水素経済の立ち上げを加速させる

ドイツ・オランダ気候変動担当閣僚会議の会合において、連邦教育研究省と連邦経済・気候保護省は、新しい助成公募「グリーン水素およびグリーンケミストリーのための電気化学材料・プロセス」(Electrochemical Materials and Processes for Green Hydrogen and Green Chemistry: ECCM)を提示し、オランダ科学研究機構とともに、グリーン水素およびグリーンケミストリーのための電気化学材料・プロセスの分野における研究プロジェクトの提案を募集している。

ベッティーナ・シュタルク=ヴァッツィンガー連邦教育研究大臣は以下のように述べた:
「今回の共同助成募集と関連プロジェクトは、グリーン水素とグリーンケミストリーのための革新的な技術開発のための重要な基盤となるものです。なぜなら、我々はロシアのガスへの依存から脱却し、同時に気候変動という人類の課題にも取り組まねばならないと考えているからです。現在、我々は新規プロジェクトに対し、合わせて1,000万ユーロを拠出しています。ドイツとオランダは共に強力な産業クラスターを形成しており、この強みを活かして共同で技術革新を進め、両国のグリーン水素経済の活性化を加速さたいと考えています。私の目標は、ドイツを水素共和国にすることです。これは経済的にも大きなチャンスです。しかし、強力な研究とその成果の迅速な実用化なしには、これらを達成することはできません。」

ロベルト・ハーベック連邦経済・気候保護大臣は次のように述べた:
「グリーン水素は、気候中立経済を実現するための重要な鍵であり、特に産業界においては、その需要は一気に高まると見込まれます。そのため、ドイツ政府は水素経済の立ち上げを大幅に加速させることを目指しています。ドイツは、水素の製造・貯蔵・利用・輸送技術において、世界のリーダーとなることを目標に掲げています。ドイツは、再生可能エネルギーの供給が多い世界中の地域からグリーン水素とその関連製品を輸入するオランダのようなパートナーを必要としている。各国の強みを組み合わせることで、相乗効果を発揮し、グリーン水素のグローバルサプライチェーンの構築を大きく前進させることができます。」

背景
ドイツは2045年、オランダは2050年までに気候中立の達成を目指しており、その鍵を握るのがグリーン水素である。グリーン水素は、直接電化できない、あるいは電化が困難で、同時に気候変動に大きな負荷を与える分野、例えば化学工業を含む特定の工業プロセスなどの脱炭素化に利用することができる。

ドイツとオランダのパートナー間の協力プロジェクトは、グリーン水素とグリーンケミストリーのための非常に革新的で実用的なソリューションとプロセスを開発するために、両国の力を結集させるものである。プロジェクトのアイデアは、研究から産業、エンドユーザーまで、イノベーションの連鎖全体に関わるパートナーの参与が必要である。

応募できるテーマは、電気分解による水素製造、水素貯蔵、エネルギーキャリアやグリーンケミカル製造のためのP2X技術および下流工程、電気合成・電気化学変換、上記プロセスのための材料・プロセス技術、グリーン水素技術の設計・製造プロセス、システム設計・システム統合などである。

ドイツ側とオランダ側で資金を提供する価値があり、将来性が高いと評価されたプロジェクトにのみ助成が行われる。純粋な国家プロジェクトと比較して、検証可能な付加価値を持ち、パートナー間の協力関係を強化するものでなければならない。プロジェクトは、オランダ(NWO)とドイツ(PtJ)のプロジェクト管理組織によってモニターされる。ドイツ側とオランダ側にそれぞれ500万ユーロの資金が提供され、5〜15件の共同プロジェクトを開始が開始される見込みである。

詳細については、以下参照
http://www.ptj.de/angewandte-energieforschung

 

https://www.bmbf.de/bmbf/shareddocs/pressemitteilungen/de/2022/10/041022-dt-nl-Klimakabinett.html

 

シュタルク=ヴァッツィンガー連邦教育研究大臣: CEPIに1億ユーロの追加支援力(10月18日)

新種の病原体に対するワクチン開発を100日以内に可能にする

連邦教育研究省(BMBF)は、国際的なイニシアチブである「感染症流行対策イノベーション連合」(CEPI)に対し引き続き支援を行う。

シュタルク=ヴァッツィンガー連邦教育研究大臣は説明する:
「新型コロナウイルスのパンデミック対策において、ワクチンの迅速な入手が転機となりました。これは、国際的なワクチン構想「Coalition for Epidemic Preparedness Innovations」が必要であることを示したのです。CEPIの中核的な目標は、新しい病原体に対するワクチンを100日以内に開発・製造できるようにすることです。我々は、この重要な目標を明確に支持し、2022年から2026年にかけて、CEPIにさらに1億ユーロの資金を提供する予定です。連邦教育研究省は、すでに当初から総額5億2,000万ユーロを拠出し支援を行っています。なぜなら、グローバルな問題にはグローバルな解決策が必要だからです。」

背景
国際的なイニシアティブ「Coalition for Epidemic Preparedness Innovations」(CEPI)は、投資を通じてパンデミックの可能性がある病原体に対するワクチン開発を促進することを目的としている。ドイツは創設メンバーとして、CEPIのコア・ポートフォリオに9,000万ユーロを投じている。新型コロナウイルスのパンデミック時には、COVID-19のポートフォリオにも4億3,000万ユーロの追加資金が提供されている。

CEPIはこれまでに、SARS-CoV-2に対する14種類のワクチン候補の開発に投資し、5種類のCOVID-19ワクチン(AstraZeneca、Moderna、Novavax、SK Bioscience、Biological Eによる)を承認に導いている。また、ワクチンへの公平なアクセスと世界的な流通を提唱し、新しい病原体にワクチンを迅速に適応させるための基盤技術の開発にも投資している。

詳細については、以下参照
www.cepi.net

 

https://www.bmbf.de/bmbf/shareddocs/pressemitteilungen/de/2022/10/181022-CEPI.html

 

応用科学大学(HOCHSCHULEN FÜR ANGEWANDTE WISSENSCHAFTEN: HAW)に対する広範な資金措置が全面的に実施す(10月20日)

ドイツ研究振興協会(Deutsche Forschungsgemeinschaft: DFG)は、応用科学大学(Hochschulen für Angewandte Wissenschaften: HAW)および専門大学(Fachhochschulen: FH)における知識志向の研究を促進するためのさらなるプログラムとして、リサーチ・インパルス(Forschungsimpulse: FIP)の公募を発表し、具体的な提案に大きな関心を寄せている。

DFGは、応用科学大学および専門大学において、「リサーチ・インパルス」の公募を開始した。これは、応用科学大学と専門大学に申請を明確に呼びかけた最新の助成プログラムである。これは、知識志向の研究アイデアを持つ研究ネットワークを結集し、応用化学大学と専門大学が研究力をさらに高め、科学的プロファイルの強化を支援することを目的としている。

DFGはすでに、応用化学大学と専門大学のために他の多くの特別な助成プログラムを開始していた。これには、指定の研究プロジェクトのために既存の大型装置インフラを拡張する大型装置アクション(GGA-HAW)、大型装置の使用に伴うマテリアル・グラントの公募(GG-SBH)、応用科学大学の研究の国際化のための支援(UDIF-HAW)、応用化学大学及び専門大学の移転プロジェクトを助成するためのプログラム(Transfer HAW/FH PLUS)が含まれる。

DFGのKatja Becker会長 は、以下のように述べた。「応用科学大学の研究者たちが、既存の助成制度や新たに創設された助成制度に積極的な関心を示してくださっていることを嬉しく思います。応用科学大学の施策に関する説明会で、大きな反響と好意的なフィードバックをいただき、心強く感じています。」

応用科学大学と専門大学の研究は、近年、力強く発展している。DFGは、ドイツ最大の研究助成機関であり学術の中央自治体として、このことを考慮し、過去2年間、助成金のポートフォリオを見直し、拡充してきた。既存のDFGプログラム及び助成条件を適宜変更することに加え、応用科学大学及び専門大学ニーズに特化した、独自の予算を持つ施策が開発された。そのために、2020年から応用科学大学及び専門大学の研究者、ドイツ大学長会議(Hochschulrektorenkonferenz : HRK)、ドイツ学術審議会(Wissenschaftsrates)の事務局、そして連邦政府や州政府との間で集中的な協議が行われている。

「優れた研究を促進することは、DFGの中核的な役割です。これには、応用科学大学や専門大学における非常に優れた研究が含まれています。我々の助成プログラムの枠組みを改善するだけでなく、ドイツの学術界に利益をもたらすべく、応用科学大学や専門大学の研究の可能性を十分に引き出すコミュニケーションにも力を入れています。」とKatja Becker会長は述べている。

プログラムに対する関心の高さは、応募数だけでなく、DFGの助成額にも反映されている。例えば、2021年には、応用科学大学を対象とした大規模な大型機器助成において、1500万ユーロを超える資金が承認された。2022年の公募では、70件以上の申請が寄せられている。新型コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンの障害と世界的な半導体不足のため、DFGは遅くとも2023年からは大型機器への資金投入が大幅に増えると予想している。

この「リサーチ・インパルス」プログラムの実施により、DFGは助成予算の1%以上を応用科学大学及び専門大学に充てることとなり、ドイツ連邦議会予算委員会の予算教書に完全に準拠することになる。2021年に応用科学大学及び専門大学に計上され、2022年に予想される繰越し分は、次年度以降、完全に解消されることになる。DFGはこの研究助成により、少なくとも2035年まで、応用科学大学及び専門大学がその科学的地位をさらに高め、競争力を強化できるよう支援を行っていく。

「DFGの観点からは、長期的に持続可能で、協力関係や国際的なつながりを強化し、システム的な効果をもたらす、効率的で十分に調整のとれた施策を展開することが重要であった。」と述べた。そのため、応用科学大学及び専門大学への短期的な資金投入を増やすだけでなく、それらをDFGの一般的な資金ポートフォリオに持続的に統合することを目指していた。」とKatja Becker会長は強調する。DFGは今回、追加資金措置によりその道筋をつけたのである。

詳細は以下参照
https://www.dfg.de/foerderung/info_wissenschaft/2022/info_wissenschaft_22_81/

 

https://www.dfg.de/service/presse/pressemitteilungen/2022/pressemitteilung_nr_42/index.html

 

ウクライナ復興における教育・研究への適切な配慮を-ドイツ、フランス、ポーランドの学長会議による共同宣言(10月25日)

ウクライナ復興に関するG7と欧州委員会の国際会議に際し、ドイツ(Hochschulrektorenkonferenz: HRK)、フランス(France Universités)、ポーランド(Konferencja Rektorów Akademickich Szkół Polskich: KRASP)の学長会議が、教育・研究の重要性を十分に考慮した計画を立てるよう呼びかけた。

共同宣言では、ウクライナの近代的で国際的に魅力ある高等教育機関の設立を支援するため、長期的な協力関係を築く用意があることを強調している。機能的な教育・研究システムの中核として、高等教育機関はウクライナの社会・経済の復興と長期的で前向きな発展に中心的な役割を担っている。実効性のある高等教育は、ウクライナの経済、政治、社会の専門家やリーダーを養成するための前提条件であり、破壊されたインフラの再建を研究開発によりあらゆる主要分野で支援できるようにするものである。

学長会議は、G7と欧州委員会に対し、ウクライナの大学と欧州の大学との長期的な協力関係を可能にする適切な政治的・財政的条件を整えるよう要求している。そういった取り組みを長期的に継続することが、社会的・経済的な復興と、ヨーロッパの共同体の一員としてのウクライナのさらなる発展を成功させる鍵となる。

声明文の全文は以下参照
https://www.hrk.de/fileadmin/redaktion/hrk/02-Dokumente/02-01-Beschluesse/2022-10-25_FU_HRK_KRASP_Trilateral_Statement.pdf

 

https://www.hrk.de/presse/pressemitteilungen/pressemitteilung/meldung/25102022bildung-und-forschung-bei-wiederaufbau-der-ukraine-angemessen-beruecksichtigen-gemeinsame/

 

 

ヒルデ・ドミーン・プログラムの1年間:「奨学金が私のアカデミック・キャリアを救った」(10月25日)

ドイツ学術交流会(Deutscher Akademischer Austauschdienst: DAAD)のヒルデ・ドミーン・プログラムは、世界中の危機に瀕した学生や博士号候補者を支援している。1年前の開始以来、このプログラムは大きな成功を収めている。DAADは合計で135件の奨学金を授与している。

言論・表現の自由は、世界的に深刻な脅威にさらされている。ロシアでも、トルコでも、アフガニスタンでも、多くの国において、現政権に反対の立場をとる者は、圧力を受け、排斥され、迫害される。また、こういった現状は、学問の自由、すなわち学習・教育・研究の独立性にもますます影響を与えている。

Academic Freedom Index によると、現在、全世界の80%の人が学問の自由が制限された国で生活していると言われている。学問の自由を守る学術機関の国際ネットワーク「Scholars at Risk Network」により確認された高等教育機関への攻撃は、2020年1月から2022年9月の間で約900件に上る。最も多い事件は、殺人、暴行、強制失踪(37%)、逮捕(26%)、起訴(11%)である。加えて、未報告のケースも多いと考えられる。

こうした脅威を背景に、DAADは連邦外務省の資金援助を受け、ヒルデ・ドミーン・プログラムを開始した。この奨学金制度は、出身国で教育を受ける権利を奪われた世界中の学生や博士号候補者を支援するものである。このプログラムの支援により、派遣された学生はドイツで学業を開始または継続し、安全な環境のもとで大学の学位や博士号を取得することができる。

 

「恐らく、あなたも私を殺したでしょう」

29歳のアミラ*は、ドイツの農学部で博士課程に在籍している。彼女の母国アフガニスタンでは、2021年にタリバンが政権を掌握して以来、女性はアカデミアから排斥され、彼女が博士号を取得するチャンスは失われた。「私のアカデミック・キャリアはヒルデ・ドミーン・プログラムによって救われたと率直に言うことができます。それにより、今は、目の前に素晴らしい未来が広がっていることを実感しています。女性として、アフガニスタンでは私は大学の閉ざされた門戸に直面したことでしょう。」

ミャンマーのニッキー*も同様である。ヒルデ・ドミーン・プログラムの最初の奨学生で、39歳のイスラム教徒である彼は、社会・政治人類学の博士課程に在籍している。これは、彼の母国ではありえないことである。ミャンマーでは、仏教の影響を受けた軍事政権が、国内のさまざまなイスラム系少数民族を弾圧している。例えば、ムスリムであるロヒンギャの人々は無国籍とみなされ、選挙権や被選挙権が認められておらず、病院や学校へのアクセスもままならない。また、他のイスラム教徒グループは二流市民として扱われ、構造的暴力に苦しんでいる。政治的な反対意見は許されない。「私は母国では有名な政治活動家です」とニッキーは言う。「2021年の軍事クーデターの後、私は逮捕されるかもしれない、もしかしたら殺されるかもしれない、という危機にありました。ヒルデ・ドミーン・プログラムは、私と私の家族を軍の恐怖から救ってくれたのです。」

 

ドイツ語コース、異文化理解トレーニング、カウンセリング

サポート内容は、生活費をまかなうための毎月の給付金、保険、交通費などである。奨学生が持っている語学力や、学業および研究活動における必要性に応じて、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月のドイツ語コースが提供される。さらに、ドイツでの学業開始にあたり準備のためのオリエンテーション、異文化理解トレーニング、ビザ申請サポート、カウンセリングなどを受けることができる。

候補者は、ドイツ国内に法人格を持ち、科学、研究、教育、人権擁護、民主主義、法の支配、平和構築の分野で活動を行う機関、例えば、大学、人権団体、財団などから推薦される。推薦が受け付けられた後、DAADは候補者に応募を呼びかける。選考では、各候補者がいかに危機に瀕しているか及び学術業績の両方が評価される。奨学金の採用が決定されると、採用者は自国または第三国からドイツに渡航することとなる。専門分野および大学は自由に選択することができる。

 

奨学金支給枠の何倍にも上る応募数

2022年10月13日、DAADはヒルデ・ドミーン・プログラムの1周年を記念するイベントを開催した。このプログラムは開始以来、大きな成功を収めており、2022年6月までに合計135名が奨学金を受けている。奨学金受給者の出身国で最も多かったのはアフガニスタンで、74人が採用された。これには、2021年にアフガニスタンでタリバンが政権を奪取したことを受けてDAADが設立した、アフガニスタンの学生・博士号候補者に対する特別枠(26名)が含まれている。その他、ベラルーシやミャンマーなどの国からも多くの受給者がいる。現在の世界情勢により、推薦や応募の数が支給可能な奨学金枠の何倍にも上っているため、すべての候補者が考慮されることは難しい状態である。

DAAD中東・北アフリカ部門長のPhilipp Effertzは、「ヒルデ・ドミーン・プログラムの設立は正しい決断であるということが証明された」と述べる。「アレクサンダー・フォン・フンボルト財団(Alexander von Humboldt-Stiftung: AvH)のフィリップ・シュヴァルツ・イニシアチブと組み合わせることで、学士課程の学生から経験豊富な研究者まで、高等教育や科学分野において危機に瀕し弱い立場にある人たちすべてに幅広くアプローチすることができる。」

*奨学金受給者の安全性を確保するため仮名としている。

 

https://www2.daad.de/der-daad/daad-aktuell/de/83732-ein-jahr-hilde-domin-programm-das-stipendium-hat-meine-akademische-laufbahn-gerettet/