ドイツ学術情報(過去の分)
ドイツの留学生総数はコロナにもかかわらず増加(10月4日)
パンデミックは、ドイツの学生や科学者の海外への移動に関してどのような影響を与えたか。この質問に対する答えは、直近発行された「Wissenschaft weltoffen 2021」に示されており、それについて今回DAADのヤン・ケルヒャー博士と意見を交わした。
ケルヒャー博士、コロナウイルスのパンデミックによってドイツの留学生にどんなインパクトがもたらされたか、現在明らかになっているのでしょうか。
私たちは残念なことにまだパンデミックの最中におり、おそらく第4波に直面しているので、今のところ最終的な判断をすることはできない。しかしながら、ドイツでの初めの2学期間(2020年夏学期、2020年から2021年にかけての冬学期)において、いかにコロナウイルスのパンデミックは学生の移動(モビリティー)に影響をもたらしたかについて、いくつかのことを言うことができる。夏学期、冬学期その両方で、留学生の数について全体的な減少はなかった。それどころかコロナウイルスにも関わらず、ドイツへの合計の留学生数は増加した。驚くべきことではあるが、もちろんとても喜ばしいことだと言えるだろう。
また、この驚くべき結果はどのような理由によるものでしょうか。
もう少し詳しく見ると、確かに1年目の留学生については、前年同学期と比べて夏学期41%、冬学期19%と大幅な減少があったことが明らかになっている。しかしながら、この減少は、訪問学生や交換留学生に主に影響し、ドイツの大学で学位取得を希望する一般学生にはそれほど影響しなかった。これらの訪問学生や交換留学生は通常1学期間か最大でも2学期間しかドイツにいないため、合計の留学生数に大きな影響を与えなかった。加えて、私たちはコロナウイルスのパンデミックの初期から既にドイツにいる留学生の多くが、当初の計画を変更したり、変更せざるを得なかったのではないかと思う。おそらく、例えば、当初の計画を変更し、多くの学部卒業生はパンデミックの最中に仕事を探す代わりに、卒業後すぐに修士課程を開始した。コロナウイルスの結果として、そうでなかった場合より多くの留学生がドイツの学習システムの中に残ったと考えられる。
コロナ禍のドイツの学生の海外への移動(留学)についてすでに何か言えることはありますか。
はい、私たちは多少よりよいデータを持っているが、それは「単位の移動」(海外で取得した単位の互換)、すなわち、例えばエラスムスプログラムの枠組内などの一時的な学習関係の海外移動のデータに限られる。これは「学位の移動」(海外での学位取得)、すなわちドイツの学生の学位に関係する国際的な移動のデータを得るためには、私たちはそれぞれの受入国の高等教育統計に頼る必要があるが、それらは常に1年かそれ以上遅れている。しかしながら、「Wissenschaft weltoffen 2021」の発行までの間に2020年から2021年にかけての冬学期のデータがすでに利用可能な唯一の重要な受入国であるスイスの例では、パンデミックのため、ドイツの学生全般の学位の移動の数が大幅に減っているとは決して考えられないことが示されている。実際、ドイツの学生は、前年よりも約4%多く、スイスの2020年から2021年にかけての冬学期に入学した。
お話にあったドイツからの学生の単位の移動は、コロナウイルスのパンデミックが始まって以来どのように発展しましたか。
特にエラスムスプログラムの発展について、単位の移動において、それは最も重要なサポートプログラムであると言うことができる。コロナ前の2019年に、早期に終了しないでとどまった正規のエラスムスの滞在数は約4万1,000件だった。一方、コロナ禍の2020年にはたった21,000件の正規の滞在であった。しかしながら、多くの海外の大学が一時的にエラスムスの学生の受入れを完全に止めたことを踏まえると、このような不運な状況下では、これでもかなりの成功だと考えられる。正規の滞在、すなわち完全な対面式の滞在に加えて、2020年の半ばからはエラスムスによる滞在を対面とバーチャルのハイブリッドや、完全にバーチャルに行うという選択肢も出てきた。これらの選択肢を利用した学生もいたが、合わせてもこれらは2020年半ば以降のエラスムスによる滞在件数のたった約4%に過ぎない。このことからも、エラスムス参加者の大部分が、コロナ禍にもかかわらず正規の対面の滞在をしたかったということを示している。
現時点で、コロナ禍がドイツにおける国際的な研究者の移動にどのような効果をもたらしたと言うことができるでしょうか。
はい、私たちはこの「Wissenschaft weltoffen」(世界に開かれた科学)の一環として、初期のデータを集め、評価することができている。しかしながら、ここでも学生データと同じことが言える。今のところ、私たちは主に短期の滞在については述べることができているが、大学や他の研究機関での雇用契約に基づくような長期間の滞在については述べられていない。「Wissenschaft weltoffen」の一環として、私たちは科学者の短期滞在や資金助成されたゲスト滞在について関係する資金助成機関に年次調査を行っている。その調査では、2020年に、特にドイツから海外に行く移動について資金助成の急激な減少があったこと、ただ海外からドイツへの移動についてはそれほどの減少でもなかったことが示された。この理由はおそらく、私たちが調査したドイツに本拠地を置く資金助成機関は、パンデミックの状況と規制が非常に異なり絶えず変化している多くの海外での滞在より、自国でのゲスト滞在を調整・管理する方が容易だと思っているからであろう。
カリチェック大臣:人工知能で、将来の危機に対する医療システムの備えを強化(10月5日)
治療と治療コンセプトを改善するために、連邦教育研究省(BMBF)によって約5,000万ユーロの資金助成された6つの新しい共同研究拠点は、知的ITソリューションに焦点を当てている
連邦教育研究省(BMBF)によって資金助成された6つの共同研究拠点「Digital Progress Hub Health(Digitalen FortschrittsHubs Gesundheit)」は、2021年半ばから継続して研究を進めており、研究、医療、IT分野からの専門家が患者と密接に関わりパイロットモデルを発展させている。その狙いは、データの利用可能性を改善すること、入院患者と外来患者の治療からリハビリテーションと家庭医(ホームドクター)によるアフターケアに至るまで、医療の様々な分野の間での協力を強化することである。その応用範囲は、がん治療からパンデミックへの対処にまで及ぶ。6つの共同研究拠点のうち最後の1つが、10月に開始される。アンヤ・カリチェック連邦教育研究大臣は説明する。
「コロナウイルスのパンデミックはネットワーク化された協調的アプローチが、特に医療分野でどれほど重要か示している。私たちが将来の脅威に対して医療システムの備えを強化するうえで、人工知能(AI)は決定的な役割を担うことができる。そのため、私たちは6つの新しい「Digital Progress Hub Health」に2025年まで合計で5,000万ユーロを資金拠出している。研究ネットワークが解明したい中心的な問題の一つは、例えば「いつ、どこで、いくつ集中治療の病床を、重症患者のために空けておく必要があるか」というものである。それゆえ、新しいProgress Hubsの一つは、病床の空き、昨今の感染状況、感染者数の予測について、ネットワーク化された情報を使い、この問題に取り組んでいる。このネットワークを通して、知性のあるアルゴリズムは、集中治療の病床の数をどれくらい空けておくべきか、今よりも正確に予想することができるようになる。これを行うために、患者の年齢や既往症といった、集中治療ユニットでの滞在期間に強く影響する因子に関する情報を以前より多く処理することになる。AIを活用することにより、私たちはより良い治療と治療コンセプトを作るができるようになる。これも、パンデミックを克服するためのドイツ政府の経済刺激策と将来のパッケージにより利用可能なAIへの追加的資金拠出によって可能になる。」
背景:
医療データをネットワーク化し、医療を改善する。これがドイツ政府のMe-dizininformatikイニシアティブと「Digital Progress Hubs Health」が表すものである。このためBMBFは約2億3,000万ユーロを2018年から2025年まで提供している。発展とネットワーク化フェーズ(2018年-2022年)において、BMBFは、2018年から医療データ統合センターを設置している4つの医療情報科学コンソーシアムに資金拠出している。具体的な使用事例を用いて、彼らはITアーキテクチャとソフトウェアソリューションの付加価値を実際に検証している。2023年に始まる将来の拡張フェーズでは、さらに多くのパートナーが実証されたソリューションを日々の治療に統合するため、ドイツの患者は、ドイツ国内で先進的な医療情報科学イニシアティブの恩恵を得られる。
今年からBMBFは、「Digital Progress Hubs Health」に2025年まで合計5,000万ユーロの資金を拠出している。これにはドイツ政府の景気刺激策と将来のパッケージからAI戦略の実行により利用可能になった追加的な資金助成も含まれる。中心的な目標は、入院患者や外来患者の治療からリハビリテーションや家庭医(ホームドクター)によるアフターケアまでの医療セクター間のデータ利用や連携を改善することである。やはり、最適な意思決定のためには、医療システムの各地点のすべての関係者が、個々の病気の経過の全体像を評価できなくてはならない。同時に、健康研究データは治療モデルの最適化と新しい治療法の発展を支援するべきである。これらを前進させるために、研究、治療、ITの専門家は「Digital Progress Hubs Health」で患者と密接に関与しながら活動している。
AIは、価値創出と個人の生活環境の改善という領域において、大きな可能性を秘めたキーテクノロジーである。そのため、AI分野でドイツとヨーロッパの技術的主権を拡張することは、BMBFの中心的な目標である。これにはAIメソッドやツールの目標を持った更なる開発、可能な限り多くの領域での迅速な応用、同時並行で必要な専門家の育成を要する。それゆえ研究、応用への移行、人材育成はBMBFのAIへの資金助成イニシアティブの焦点となっている。
AIへの資金助成と若手研究者へのサポートにより、BMBFはAI分野においてドイツの強力な地位の基礎を築き、6月にドイツ政府の景気刺激策と将来パッケージから拠出された資金でその取組をさらに増強している。そこからBMBFは2025年まで合計7億7,000万ユーロ受け取る予定である。
https://www.bmbf.de/bmbf/shareddocs/pressemitteilungen/de/2021/09/051021-KI-Pandemiemanagement.html
カリチェック大臣:持続可能で気候に適合した復興となるよう洪水被災地を支援したい(10月6日)
連邦教育研究省(BMBF)が、ノルトライン・ヴェストファーレン州とラインラント・プファルツ州の洪水被災地における復興の科学的支援に着手
2021年7月の洪水の被害を特に受けたノルトライン・ヴェストファーレン州とラインラント・プファルツ州の地域では、インフラストラクチャ、建物、健康への大規模な被害が出ており、大きな課題をもたらしている。この課題解決を支援する科学諮問委員会と、研究プロジェクトのために、連邦教育研究省(BMBF)は、復興が科学的裏付けにより最善かつ先見性のあるものとして成功するよう予算から約500万ユーロを提供する。
アンヤ・カリチェック連邦教育研究大臣が説明する。
「私たちは被災地の復興を放置しない。復興後のインフラストラクチャが以前より良くなるよう支援するつもりである。被災地に住む人々が再び心地よく安全に暮らすことができるように、復興は持続可能で気候変動に対処できる地域になる機会をもたらす。私たちの目標は、地域が将来の異常気象や気候変動に伴う他の影響に対してより抵抗力を高めることである。そのため、私たちは研究とイノベーションにも焦点を当てている。ユニークな取組として、私たちは 15年の研究の経験をまとめ、これらを洪水被災地の復興に応用している。そのために、気候及び適応研究や都市計画などの分野の一流の専門家による科学諮問委員会を設立した。この委員会は、非常に密接にノルトライン・ヴェストファーレン、ラインラント・プファルツ両州と協力し、浸水地域で被害を受けた自治体や市民、企業にアドバイスを提供する。地域が提起する主要な問題が取り上げられ、復興過程の一部として考慮に入れられることがとても重要である。素早くそして効果的に知識から行動に移すために、私はこれに期待している。」
「ラインラント・プファルツ州と特にアール谷での洪水が引き起こした想像を絶する被害を考慮すれば、私たちは人々の居住地を早急にそして同時に洪水に適応して再建するという課題に直面している。最大の団結として、連邦政府と州政府はそのために合計300億ユーロを利用できるようにし、さらに連邦政府は人的支援も約束した。復興の科学的支援においても州政府と連邦政府が手を取り合って協力するのは、被災地にとってとても良いメッセージである。ここでは、あらゆる専門知識が必要とされている。」と、ラインラント・プファルツ州復興委員ニコル・シュタインガス次官が述べた。
ノルトライン・ヴェストファーレン州国土、地方政府、建設、男女平等省イナ・シュナレンバッハ大臣は、「ノルトライン・ヴェストファーレン州においていまだかつて匹敵する自然災害はなく、匹敵する復興もなかった。記録的な速さで私たちは被災者に支援を提供し、洪水と豪雨が私たちから奪ったものを再建している。連邦政府の科学的支援による協力によって、私たちは都市やコミュニティが将来の異常気象からより確実に防護されるよう共に取り組んでいる。私たちは復興によって未来を取り戻したい。例えば、新しい建物については、直接洪水対策を義務付けるというのも一つの手である。連邦政府の取組により、私たちにはこの道を共に歩む重要なパートナーを得た。」と述べた。
ウルズラ・ハイネン=エッサーノルトライン・ヴェストファーレン州環境大臣が強調する。
「現在の最優先事項は、災害に強い再建と未来の展望に違いない。洪水災害からの必要な結果は、特に気候変動による異常気象の増大も視点に入れ、包括的に分析されるべきである。水路管理と洪水対策の問題は、すべての土地利用とグリーンインフラストラクチャーの強化に関する可能性と同様に考慮されなければならない。洪水対策と気候適応への潜在的な力を最大限利用できるように、学際的な再考証と分析が特に重要である。」
背景:
BMBFのこれらの取組は、連邦政府と州政府が準備する復興資金とは財政的に別立てで実現される。
これらの臨時に設置された科学諮問委員会において、様々な機関や分野の研究者が協働している。彼らは、都市および空間計画、水文学や水力工学・管理、建築技術、自然・環境リスク、イノベーション及びシステム研究の分野からの専門的知識を結集している。地理学者で空間プランナーのヨルン・ビルクマン(Jörn Birkmann)シュトゥットガルト大学教授、水管理の専門家であるホルガー・シュットトゥルンプフ(Holger Schüttrumpf)アーヘン工科大学教授がこのプロジェクトのコーディーネーターを務めている。
さらにこの取組は、他のBMBF支援プロジェクトと互いに連携している。例えば、2021年7月の洪水を例に取り、特にリスク予測やリスクコミュニケーション、リスク・災害管理の問題を扱う市民安全保障研究のプロジェクトなど。得られた研究結果を基に、将来起こりうる危機への対応の改善策を見出し、例えば救助組織、安全保障を担当する組織、さらには市民といった関係者が将来を見据えてそれを実行に移すことを目指している。また、こうした知見は他の地域や他の危機シナリオへも適用可能であると期待されている。
さらに、BMBFは「Stadt-Land-Plus」措置の一環として、アーバイラー/ボン/ライン・ジーク地域の持続可能な地方自治体間の土地管理を研究するNEILAプロジェクト及び、BMBF戦略「持続可能性のための研究(FONA)」の「市と地方の行動を通じた気候レジリエンス」措置及び「RegIKlim」措置からの他のプロジェクトにも資金助成をしている。